自分のキャリアにおいて変化球ともいえる、センシティブな宗教の話題を取り扱った作品であり、禁忌に切り込んだ一作である。信仰の在り方や信仰の強要を全面的に描く必要があり、社会問題をヒップホップで発信していたMarukido氏の要望にも応える必要があった。
この企画を初めて受け取った際は、どう進めるか悩んだ。宗教観の強い歌詞と社会的メッセージの両立が求められ、プリプロダクションは非常に困難を極めた。今作のテーマである宗教二世は、幼少期から強制的に信仰を押し付けられることでトラウマを抱える子も多く、彼らは宗教的価値観と世間の常識との板挟みにより、自己のアイデンティティを確立することに苦しむ場合が多い。
また、信仰を拒むと家族やコミュニティからの孤立、精神的なプレッシャーに直面し、自由な人生選択が難しい状況に追い込まれることもある。これらのメッセージを作品に投影するため様々な資料を精査し世界観を作りこんだ。
この作品を成立上で最も影響を受けた作品がある。
「Genesis – Jesus He Knows Me」である。「Jesus He Knows Me」は、テレビを通じて信者を獲得し、多額の寄付金を集めるアメリカのテレビ伝道者を風刺している。1980年代から1990年代にかけて、宗教番組や説教番組を通じて個人的な利益を得る牧師や伝道者が増加したことが背景にある。
歌詞には、「神の力」を使って人々を操りながら、裏では贅沢な生活を楽しむ様子が描かれており、その偽善的な姿勢に対する批判が込められている。この企画の核でもある、信教の自由を利用したお布施ビジネスへの批判はまさしくこの一曲との調和性が高く、ブラックユーモアの類似点はまさに訴えたい事にマッチしていて参考にし描くことにした。
作品作りにおいて最も大切だと思うものは伝えたいメッセージである。どうしても映像に想いを入れ始める時は技術ばかりを求めすぎてしまう。そういった面も大切だが、それはあくまでもツールであり、画家にとっての筆でしかない。
その筆で描くモナリザが何十年何百年経ち、そのメッセージが時代を超え、人の心に呼びかける物である。この作品の制作を引き受けたのも、そうした在り来たりな消費コンテンツを作るためではなく、意味のある明日を作るためである。
Director: Navid Mohammad
2nd cam: Mirai Shikiyama